WS2(二硫化タングステン)
板状の分子構造で重なった層を形成し、それが滑る事で潤滑する固体潤滑剤です。
この様な物性の潤滑剤は他にMoS2(二硫化モリブデン)やグラファイト(黒鉛)があります。
特性は二硫化モリブデンによく似ており水分に弱い以外は上位互換の性能(*1)を持っています。
特に高温、高負荷時に非常に強く、高負荷になるほど摩擦係数が下がる特性があり高い極圧性を有しています。
潤滑油に馴染みやすく分散性があり凝集沈殿しづらいのでエンジン内部の汚れになりにくいです。
潤滑成分自体もオイルの清浄分散剤の影響を受け摺動面に定着しづらくなり効果を高めるには投入量も多くなりますが、WS2は分散性の良く分散剤が少量またはオイル自体が持つ分散性だけで分散し、使用量を削減でき経済的です、またMoS2(二硫化モリブデン)の弱点を補うために少量だけ添加という形で使用することもできます。高い極圧性と潤滑膜の形成しやすさによりエンジンのコールドスタート、ドライスタートによる摩耗にも効果的に働きます。
また酸にも強いので燃焼ガス残渣等の酸化物が溶け込むエンジンオイル中でも長期間性能を維持し、その効果はMoS2の3倍(*2)の持続性があります。
化学合成で生成するのでMoS2より高価なため、MoS2の弱点を補う様にMoS2添加剤にWS2を少量添加して使用するのもおすすめです。
性質はMoS2とよく似ておりますが以下の違いがあります
比較表 | 二硫化タングステン | 二硫化モリブデン |
製造方法 | 化学合成 | 主に天然鉱物 |
不純物 | 合成で作るので少ない。弊社では99.99%品を販売しております。 | 比較的多い、精製度に依存、高純度のものは研究試薬用、それでも99.5%程度、潤滑用は更に純度が低いと思われる。 |
耐熱性 | 425℃以上で酸化し始める | 350℃以上で酸化し始める |
耐酸性 | 耐性あり | 硫酸、塩酸、硝酸に侵される |
耐湿性 | 比較的弱い、湿気と熱で酸化 | 比較的強い |
凝集性 | 小、分散剤無又は少量で分散 | 大、凝集沈殿します |
潤滑膜 | 比較的潤滑膜を形成しやすい | 比較的潤滑膜は形成しづらい |
摩擦係数 | 同程度、高温高負荷時は優れる | 低温低負荷時は僅かに良い |
*1
大気中では若干摩擦係数が高く、真空中では低いです。恐らく水分の影響で、水分があると摩擦係数が上がりますがオイル中や乾燥した雰囲気中ではMoS2に比べ同等以上の摩擦抵抗軽減性能です。*3
*2
3倍と言う数値は安定した試験環境下の場合です。MoS2と比較し酸、熱に強く水分に弱い性質上、雨季時や短距離走行が多い場合は持続性は短くなり、高負荷が掛かる運転や、長距離走行が多い場合は長くなります。*3
*3とは言え、冷却水がエンジンに混入するような不良のあるエンジンや、エンジン自体が低発熱なハイブリッド車などでエンジンオイルが乳化白濁するような状態でなけでば影響は皆無かと思います。
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