ZnDTP(ジンクジアルキルジチオリン酸)(ZDDP)とは

・ ZnDTP(ジンクジアルキルジチオリン酸)の概要と特性

ZnDTP(Zinc Dialkyldithiophosphate)、一般にZDDPとも略される、はエンジンオイルやギアオイルに添加される重要な添加剤です。この化合物は、優れた極圧性能と酸化防止作用を持ち、高温・高圧下での機械部品の摩耗と劣化を効果的に防ぎます。この記事では、ZnDTPの特性、働き、種類、およびトライボフィルムについて詳しく説明します。

・ ZnDTPの主要な特徴

1. **極圧性能**: ZnDTPは金属表面に強力に吸着し、機械部品が高温・高圧下で直接接触するのを防ぎます。これにより、摩耗が大幅に抑制されます。
2. **酸化防止作用**: ZnDTPは高温下で分解すると、金属表面を保護する反応膜を形成し、酸化を防ぎます。これによりオイルの劣化が遅れ、長期間にわたる保護が可能となります。
3. **熱安定性**: この添加剤は高温環境下でも化学的に安定しており、長期間にわたってその性能を維持します。
4. **相乗効果**: 他の添加剤と組み合わせることで、それぞれの効果が増強され、全体としての潤滑性能が向上します。

・ZnDTPの作用メカニズム

1. **境界潤滑**: 金属部品間で直接の接触を防ぎ、摩耗を減少させるために金属表面に吸着します。
2. **反応膜の形成**: 高温・高圧下でZnDTPが分解し、金属表面に保護的な反応膜を形成します。この膜は摩耗や焼き付きを防ぎます。
3. **触媒毒作用**: ZnDTPの含有するリンと硫黄が排気ガス浄化装置の触媒に悪影響を及ぼすことがあります。

・ ZnDTPの種類と特性

ZnDTPには、異なるアルキル基の種類や構造によって複数の形式が存在します。

1. **プライマリーZnDTP**: 直鎖状のアルキル基を持ち、酸化防止性能に優れています。
2. **セカンダリーZnDTP**: 分岐状のアルキル基を持ち、極圧性能に優れています。
3. **混合ZnDTP**: プライマリーとセカンダリーのバランスを取り、多様な性能を提供します。(テンペラメントルブで販売しているZnDTPはこのタイプです
4. **低リン・低硫黄ZnDTP**: 環境規制に対応するためリンと硫黄の含有量を抑えたタイプです。
5. **アリールZnDTP**: 芳香族基を持ち、高温下での安定性が特に優れています。

用途や要求される性能に応じて、

最適なタイプのZnDTPが選択されます。

・トライボフィルムの特性

ZnDTPは、潤滑部位にトライボフィルムと呼ばれる保護膜を形成します。この膜は以下のような特性を持っています:

1. **多層構造**: 硫化亜鉛や亜鉛リン酸塩など、無機化合物の層によって構成されています。
2. **自己修復性**: 摩耗によって損傷した場合でも、新たに反応して膜を再形成します。
3. **摩擦調整機能**: 適切な摩擦係数を維持し、摩耗を効果的に抑制します。
4. **他成分の吸収**: 他の添加剤や金属成分を取り込み、より強固で安定した膜を形成します。

ZnDTPは、その複雑な作用により、エンジンやギアの性能維持と寿命延長に寄与しますが、環境規制への対応と触媒被毒の問題も課題となっています。これらの課題に対応するため、低リン・低硫黄タイプの開発や新しい代替添加剤の研究が進められています。

ZnDTPは1940年代に開発されて以来、その性能が広く認識され、特に航空機用エンジンオイルにおいて初期の利用が見られました。その後、自動車用エンジンオイルにも採用が広がり、現在では広範な用途で利用されています。長年にわたる研究と開発により、さまざまなタイプのZnDTPが開発され、特定のアプリケーションに最適化されています。


・ ZnDTPのメリット

1. **極圧性能と摩耗防止**: ZnDTPは、金属表面に反応膜を形成し、摩耗や直接的な金属接触から保護します。これによりエンジンやギアの耐用年数が延長されます。
2. **酸化防止効果**: オイルの酸化を遅らせることで、オイル交換のサイクルを長くし、メンテナンスコストを削減します。
3. **高温下での安定性**: 高温環境下でもその性能を維持し、過酷な条件下での信頼性が高いです。
4. **他の添加剤との相乗効果**: 他の添加剤と組み合わせることで、全体の潤滑性能を向上させることができます。

・ ZnDTPのデメリット

1. **触媒毒性**: ZnDTPが含有するリンと硫黄が排気ガス浄化装置の触媒に悪影響を与え、性能を低下させる可能性があります。
2. **環境規制への対応**: 排出ガス規制の強化により、使用量が制限され、新しい規制に適応するための配合変更が必要になります。
3. **内部エンジン汚染**: 長期間オイル交換をしない場合はエンジン内部に堆積物が蓄積されることがあります。
4. **コスト**: ZnDTPは他の添加剤に比べて高コストであり、価格面でのデメリットがあります。

・ まとめ

環境規制の強化と技術の進化に伴い、ZnDTPの使用に関しては多くの課題が存在します。特に、排気ガス浄化装置への影響は問題となっており、ZnDTPのリンや硫黄含有量を低減するか、またはこれらを含まない全く新しいタイプの添加剤の開発が求められています。これに対応するため、低リン・低硫黄タイプのZnDTPや、有機モリブデン化合物などの代替添加剤が開発されており、これらは環境規制に適合しつつ、潤滑性能を維持することを目指しています。

エンジンやギアの性能と寿命を維持するために、ZnDTPの特性を理解し、そのメリットとデメリットを考慮した適切な使用が重要です。


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